
2018年3月27日に、第103回の薬剤師国家試験の合格発表が行われました。合格率は70.58%(新卒は84.87%)であり、前回から1ポイントの低下ということでした。受験者数1万3579人に対して合格者は9,584名と、1万人近い方々が新たに薬剤師の資格を取得し、現場で働き始めています。
本稿では、今回の国家試験の傾向から、国が求めている薬剤師像についてご説明させていただきます。
第103回薬剤師国家試験の傾向
薬学部の課程は従来の4年制から6年制へと変わり、それに伴って第97回(2012年)の国家試験より、出題傾向も大きく変化しました。
以前の国家試験に比べると問題数も増え(240問→345問)、より現場で求められる実践的な内容が出題されるようになりました。
98回以降の国家試験では、実務面での対応能力が問われることが多く、「問題解決能力」を問う出題が増えてきています。
また、近頃では医薬品の数も増えており、より複雑な作用機序を持った薬剤も使用されるようになりました。
医薬品の薬理作用や作用機序についても、しっかりと理解していないと解けない問題も増えているのです。
第103回薬剤師国家試験の特徴
特に第103回の試験においては、「考える力」、「問題解決能力」、「現場における実践力」を必要とする問題が多く出題されています。
生物と衛生の科目を超えた4連問なども出題されており、専門家からは第106回からのコアカリキュラムの改訂を意識したのではないかといわれています。
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第103回薬剤師国家試験の傾向からみる国が求める薬剤師像
具体的に出題があった内容について、いくつか例を挙げてみていきましょう。
かかりつけ薬剤師に関する設問
問322−323
いつも薬局を訪れる女性の患者から「かかりつけ薬剤師という言葉をテレビで聞いたが、何をしてくれるのですか」と薬剤師に質問があった。
問322(実務)
質問を受けた薬剤師は患者にかかりつけ薬剤師について説明した。その内容として、適切でないのはどれか。1つ選べ。
- 一般用医薬品を含めた服薬情報を一元的に管理する。
- 在宅訪問し、薬剤管理指導を行う。
- 医薬品や健康食品などに関する相談に対応する。
- 患者が受診しているすべての医療機関の処方情報を把握する。
- 休日を除いて24時間対応する。
問323(法規・制度・倫理)
国民がかかりつけ薬剤師を適切に選択するためには、薬局に関する情報が十分に提供されている必要がある。
このため、薬局開設者には、医療を受ける者が薬局の選択を適切に行うために必要な情報として厚生労働省令で定める事項を都道府県知事に報告することなどが義務づけられている。
薬局に関する情報の報告について、誤っているのはどれか。1つ選べ。
- 薬局開設者は、薬局において、書面などの方法により報告した事項を閲覧できるようにする。
- 薬局開設者は、報告した事項について変更が生じたときは、速やかに都道府県知事に報告する。
- 報告された事項は、個人情報保護の観点から都道府県知事は公表しない。
- 報告する事項には、認定薬剤師の種類及び人数が含まれる。
- 報告する事項には、地域医療連携体制が含まれる。
(第103回薬剤師国家試験より抜粋)
例えば、上記の問題では、「かかりつけ薬剤師」という言葉の意味を、薬学生に問いかけた問題が出題されています。
今後の薬剤師の大命題として、かかりつけ業務を行って地域に貢献していくことが求められています。
薬剤師国家試験の問題においても、かかりつけ薬剤師のあり方が問われているのです。
ちなみに、上記の設問の答えは問322で「5」、問323で「3」です。

後発医薬品(ジェネリック医薬品)に関する設問
問316−317
保険薬局で保険薬剤師が、先発医薬品から後発医薬品への変更調剤などを行う際の留意点及び患者への説明内容について確認した。
問316(実務)
変更調剤などを行う際の留意点に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
ただし、後発医薬品へ変更が可能な処方箋を応需した場合とする。
- 一般名処方では、先発医薬品の調剤を優先する。
- 銘柄名処方の後発医薬品は、別銘柄の後発医薬品には変更できない。
- 外用薬は、クリーム剤から軟膏剤のように剤形を変更することができる。
- 変更する際は後発医薬品の適応症を確認する。
- 変更調剤した薬剤の銘柄について、処方箋を発行した保険医療機関に情報提供する。
問317(法規・制度・倫理)
後発医薬品へ変更する場合の患者への説明内容として、正しいのはどれか。2つ選べ。
- 先発医薬品に比べて開発費が低く、薬の価格を安くすることができる。
- 添加剤は先発医薬品と異なることがある。
- 後発医薬品の薬価は、同一成分同一規格であれば、どの会社の製品でも同じである。
- 臨床上の有効性・安全性が先発医薬品と同一であることが確認されている。
(第103回薬剤師国家試験より抜粋)
上記の問題では、後発医薬品(ジェネリック医薬品)についての問題が出題されています。
国の提唱している「骨太(ほねぶと)の方針2017」においても、国民負担の軽減という観点から、薬価に対する抜本的な改革が求められています。
後発医薬品の使用促進は医療費削減の本命の一つであり、薬剤師が先頭に立って進めていくべきであると考えられています。
現場に立って患者様に後発医薬品を普及していくためにも、後発医薬品に対する正しい知識を身に着ける必要があります。薬剤師国家試験はそのことを示しています。
ちなみに、上記の設問の答えは問316で「4、5」、問317「1、2」です。
その他目立った特徴
そのほかにも、基礎(物理・化学・生物)分野や衛生において、図・グラフ・表などを読み解く問題が多く出題されています。
医療現場における患者さんの実例などを挙げた問題も増えており、症例・処方・シチュエーションなどを読み解いていかなくてはなりません。
ここでもやはり、「考える力」や「総合的な力」が求められており、様々な知識を総動員して、医療の質の向上に貢献していかなくてはならないのです。
国が今後求める薬剤師像まとめ
これらの問題から、国が今後求める薬剤師像としては、下記のようなものが挙げられます。
- 「考える力」や「総合的な力」を持った薬剤師
- 複雑化する薬物治療において、薬の専門家として貢献していける薬剤師
- かかりつけ業務をしっかりと担っていける薬剤師
- 後発医薬品の普及などを通じて、医療資源の適正化に貢献することのできる薬剤師
現在既に働いている薬剤師は、処方箋に則した調剤を行うだけでは生き残っていけないでしょう。
これまで以上に「考える力」を発揮していかなくてはなりません。
処方箋に疑わしい点がある場合だけでなく、より望ましい「提案」がある場合には、積極的に「発言」をしていくようにしなくてはなりません。
時には医師・看護師・ケアマネジャーなどの他の医療系職種に対しても「提言」をしていかなくてはなりません。
よりコミュニケーション能力も求められてきます。
国の求める薬剤師像を追うことは必ずしも良いことばかりではありませんが、医療従事者が足並みをそろえて活躍することは患者様のためになることでしょう。
ぜひとも「考える力」、「総合的な力」を身に着けた薬剤師を目指してみてください。